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2015.7.12

自分も知らない自分に会える! アートセラピーを体験してみよう

医療機関や福祉施設などで心理療法として行われるアートセラピー。通常は患者や施設利用者が対象になりますが、4月某日、このアートセラピーによって学生の交流をうながすワークショップが行われました。会場となったのは東京・原宿にあるデザインフェスタギャラリー。「万国學生藝術展覧祭2015(通称、學展)」に出展する学生を中心に、16名の参加者が集まりました。【PR】

田尾

オオカミ?も、アートセラピーのワークショップに参加!
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具体的なモチーフを描かない

まず、学校机が並ぶ会場で3グループにわかれて座り、各々にスケッチブックが、グループごとに24色のオイル・パステルが配られました。「まず家、花、太陽を自由に描いてみてください」と、講師の髙橋美穂先生。

学生たちの前でレクチャーする髙橋美穂先生

「家」や「花」と聞くと、三角屋根の家や花びらのついた花を思い浮かべますよね。こうした具体的なモチーフを表す絵を、専門的な言い方では「シンボル」と言うそう。

「『シンボル』は思考や論理をつかさどる左脳で描いていますが、今日は直感をつかさどる右脳で描きましょう。これから3つのテーマを出します。具体的なものは描かず、心情を紙にのせてみてください。そして描いた絵を見せ合い、お互いに感想を言いましょう。

重要なのは、ネガティブなコメントをしないこと。キーワードは『直感』『決断』『共感』です」。

実際に挑戦してみよう

ひとつ目のテーマは「喜び」でした。「喜びの気持ちを思い出し、画面にぶつけてください」と髙橋先生。思い思いに選んだパステルで手を汚しながらも、学生たちは夢中でスケッチブックに向かいます。中央に赤い円を、その周辺に黄色い円を淡く描いたのは後藤さゆりさん。後藤さんにとって喜びとは「心が温かくなる感じ」だそうです。

後藤さゆりさんが描いた、「喜びの気持ち」

暖色系や明るめの色を使った表現が多いなか、青と白で喜びを表した絵も。一通り描き終えたところで、グループ内で感想を言い合いました。

次のお題は「悲しみ」。先ほどまで賑やかだった会場も静かになり、黙々とスケッチブックに向かいます。その表情は「悲しみ」というテーマのせいか、どことなく沈んでいくよう。

画面の下層に小さな渦を描いた絵は「何も考えたくない、詰まっている感じ」が表現されているのだとか。その渦は多色を重ねて濁り、ふきだまりのような印象を受けます。周囲からは「多くを語らない悲しさを感じる」と感想がありました。

また、青や黒などの水平なラインを何層にも重ねた山本麗美さんは「表には出ていないけれど、悲しさが底の方に沈んでいる」と話しました。

青や黒のラインで「悲しみ」を描いている山本麗美さん(写真右)

そして最後のテーマは「今の自分」。「こうなりたい」という思いを描いた宮里日菜乃さんの絵は、黒い固まりを起点にカラフルな弧が波紋のように連なり、それをいくつもの線が放射状に貫いています。

また「一つの考えに凝り固まらず、いろいろな情報を得ながらクリエイティブな仕事ができるようになりたい」という森本祈さん。オレンジ、黄色、黄緑、水色など爽やかな色を画面全体に散らしました。

色んな自分を伝えられる、自己紹介

それぞれの「今」をスケッチブックにしたため、初めて出会った人たちと共有した今回のワークショップ。「普通の自己紹介よりも、生身の自分を見せることができたのではないでしょうか」と髙橋先生。ワークショップ終盤を迎えた参加者の顔は、いささか晴々としていたように思えます。

「最初は知らない人と話ができるか不安でしたが、ワークショップを通じてすぐに打ち解けられました」と宮里さん。参加者のほとんどがお互いに初対面でしたが、ワークショップ後も熱く語り合う姿が見られ、距離を縮める有意義な場となりました。

ワークショップを終えた学生たちと、それぞれが描いたイラスト

自分の感情や、自覚できていない思いをかたちにして、コミュニケーションすることができる。今回のワークショップでは、アートセラピーを通して、そういったアートの可能性を再確認することができました。

様々なジャンル・学生が集まる學展で、学生たちが作品を通してどんなコミュニケーションをするのか、その化学反応に期待が高まります。