2017.2.17

テクノロジーアートの祭典
「MEDIA AMBITION TOKYO 2017」都内各所で開催

最先端のテクノロジーカルチャーを、実験的なアプローチで提示する「MEDIA AMBITON TOKYO」が今年、5回目の開催を迎えた。六本木ヒルズを中心に、都内各所で展開されるテクノロジーアートの祭典。その見どころをお届けする。

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 「MEDIA AMBITON TOKYO」(以下MAT)は、これまで国内外のアーティスト、企業が参画し、アート、映像、音楽、パフォーマンス、トークショーなど様々なアプローチで、テクノロジーの可能性を提示するイベントとして成長してきた。

 過去には、フルスタック集団「ライゾマティクス」や、ウルトラテクノロジスト集団「チームラボ」など、各ジャンルの第一線で活躍する作家たちが参加してきたMAT。2017年は新たに、「現代の魔法使い」としてデジタルネイチャーを提唱し、「茨城県北芸術祭2016」にも参加するなど、その活動領域を広げる落合陽一や、デザインとエンジニアリングを横断するTakram、オーストリアのリンツで開催される芸術・先端技術・文化の祭典「アルスエレクトロニカ」にも出展した脇田玲・小室哲哉などが加わり、よりパワフルな布陣となっている。

若手アーティストの共演

 今回のMATでは、若手作家も数多く紹介。生き物との恊働によって作品制作を行うAKI INOMATAや、「飛び出すアート」で知られる松枝悠希、身近なものや動作をモチーフに個人の時間を過ごすための作品を制作する寺田鵬弘など、多様な新しい表現が共演しているのは見どころの一つだと言えるだろう。

新たな視覚体験

 MAT2017で注目したいのは、もちろん若手アーティストだけではない。ここで紹介するのは新たな視覚体験を提示する作品の数々だ。WOWの《TOKYO LIGHT ODYSSEY:future by LEXUS》では、東京の都市を自在に疾走するような映像を全天球型のモーショングラフィックスで体感。東京と仙台、ロンドンに拠点を置くビジュアルデザインスタジオ「WOW」と、五感を刺激する”驚きと感動”を提供し続ける自動車メーカー「LEXUS」がここでしか見られないコラボレーションを果たした。

 落合陽一は3つの作品を展示。薄さ1マイクロメートルに満たない薄膜の上で超音波振動と光によって蝶の姿を出現させる《Colloidal Display》は、東京の街並みを背景に溶け合うように設置されており、都市とアート、そしてテクノロジーの見事な融合を見ることができる。このほか、金属球が磁気によって浮上し、景観を球体に写し撮りながら、車輪状に回転し続ける《Levitrope》、超指向性スピーカーによる空間音響技術で、空間に気配感を蘇らせる《Whisper of Spirits/幽体の囁き》など、落合の最新形を一堂に楽しめるのは嬉しい。

 オーディオビジュアル・パフォーマンスからサウンド・インスタレーションまで、さまざまな媒体で表現を行うベルリン在住のアーティスト、ダヴィッド・ルテリエは、向かい合う2つのキネティック・スカルプチャー《Versus》を展示。カーステン・ニコライとの息の長いコラボレーションでも知られるルテリエ。本作は、12枚の三角形のミラーパネルで構成されており、特殊なアルゴリズムによってその動きが制御されている。中央に内臓されたスピーカーから発せられた音を、向かいのスカルプチャーがキャッチし、会場のノイズの影響も受けながら、音の周波数に応じて動くというもの。2012年にアルスエレクトロニカ賞を受賞した作品が見られる、またとないチャンスだ。

ダヴィッド・ルテリエ Versus 2011 Photo by Koki Nagahama/Getty Images for Media Ambition Tokyo

 また今回は、異色のコラボレーション作品も展示。「日常に隠された絶景」をあぶり出すような、ビジュアライゼーションの制作に注力している脇田玲の映像と、数々のヒット作で知られる音楽プロデューサー・小室哲哉の音楽による《Scalar Fields》は、人が歩く際に空気中に圧力が伝播する様子を、数値流体力学でシミュレーションし、8K映像と5.1chサウンドを用いた映像音響インスタレーションに仕上げた作品。16年のアルスエレクトロニカで、初の本格的4Kアート作品として発表されたものが日本初公開されている。

脇田玲・小室哲哉 Scalar Fields 2016 Photo by Koki Nagahama/Getty Images for Media Ambition Tokyo

テクノロジーで実現する“おもてなし”

 2020年の東京オリンピック・パラリンピックを控えたこの時代だからこそ見ておきたい作品もある。牛込陽介(Takram)の《OmotenashiMask》は、異文化コミュニケーションの可能性を探るプロジェクトとして、タクシー運転手と外国人観光客というシチュエーションを舞台に、顔変換アルゴリズムとテキスト読み上げ機能を使って、「おもてなし」をユーモアに表現している。また、トークセッション時には音声認識と音声合成機能を用いてリアルタイムで字幕を生成する「UDトーク」を実装。テクノロジーがバリアフリーにどのように生かされるのかを実践する。

牛込陽介(Takram) Omotenashi Mask 2016 Photo by Koki Nagahama/Getty Images for Media Ambition Tokyo

都内各所で展開されるテクノロジーアート

 なお、MATでは六本木ヒルズのほかにも、都内の各所で同時多発的に数多くのプログラムを展開。技術的側面と文化的側面を持つ若手作家を紹介する「AXIOM Selection 01」、昨年度の文化庁メディア芸術祭で優秀賞を受賞した長谷川愛の《私はイルカを産みたい》と《シェアードベイビー》を日本初公開する「Ai Hasegawa『Second Annunciation』」(ともにART & SCIENCE LAB AXIOM)、宇治野宗輝らが参加する「第6回デジタル・ショック−欲望する機械−」(アンスティチュ・フランセ東京、神楽坂)、チームラボの子ども向けワークショップ(代官山)、情報科学芸術大学大学院[IAMAS]の活動を紹介する「Caiculated Imagination IAMASが発信するメディアアート展」(ラフォーレミュージアム原宿)、学生CGコンテスト受賞作品展(日本科学未来館)など、テクノロジーアートに関連する展覧会、イベントが多数開催され、都市をテクノロジーアートで染めていく。