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シェイプト・キャンバス

Shaped canvas

 絵画の伝統において主流であった四角形のキャンバスに対し、変形的な外形をもつキャンバスを指す用語。1960年代にフランク・ステラが着手した一連のシリーズが、その端緒として知られる。

 美術批評家のマイケル・フリードは論文「形式としての形」(1966)においてこれらの作品に着目し、「形 shape」がモダニズムの歴史を更新する新たなメディウムとして登場したことを読み取っている。フリードは絵画の形体/形態的な構成要素を、支持体の物理的な形体(リテラル・シェイプ)と描かれた形態(ディピクテッド・シェイプ)に区別した上で、この両者がステラの「不整多角形」シリーズにおいて統合を示すに至ったのだと指摘する。それに先行する「アルミニウム」シリーズにおいては、絵画全体を囲う外縁のシルエットが画面内で反復的に描画され、描かれる形態はこの点において、キャンバスの物理的な限界すなわちリテラル・シェイプによって規定されていたといえる。

 いっぽう、続く「不整多角形」シリーズでは、キャンバスは不規則なフレーム構造において実現され、いくつかの個別の形が連続的に関係する様相が示された。ここで形のリテラルな属性は、絵画を全体的に枠づける支持体に帰属するのではなく、支持体の外縁とみずからの外縁とを部分的に一致させつつ描かれた、複数の個々の形のうちに解消されることとなる。そのような場においては、2種の形体/形態の区別は発展的に無効化されており、絵画を構成する物理的な側面はまるでそれが存在しないかのように、視覚的なイリュージョンへと包摂される。

 こうした理路には、リテラルな(=即物的な/文字通りの/それ以上でも以下でもない)ものに対するフリードの美学的な反発が伏流しており、それは翌年に書かれた論文「芸術と客体性」(1967)で展開された「リテラリズム(ミニマリズム)」批判の脈絡とも深く関連するものである

文=勝俣涼

参考文献
“Shape as Form: Frank Stella's Irregular Polygons," in Art and Objecthood: Essays and Reviews(マイケル・フリード著、The University of Chicago Press、1998)