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エクスパンデッド・シネマ

Expanded Cinema

 従来の映画館等とは異なる方法・形式で上映される映画のこと。「拡張映画」とも言う。1960年代半ばからアメリカ・ニューヨークを中心に興り、映画作家のジョナス・メカスによって65年に初めて「エクスパンデッド・シネマ」の呼称が用いられた。既存の商業映画が1つのスクリーンに1つの映像を投影する固定的な鑑賞形式であるのに対し、エクスパンデッド・シネマには、マルチ・プロジェクションを用いて複数の映像を投影する作品、演劇やハプニングと融合したライブ・パフォーマンス的な形式の作品、ループ映像を用いたインスタレーション的作品などがある。

 エクスパンデッド・シネマの展開にはアメリカで巻き起こったサイケデリック革命、フルクサスをはじめとするパフォーマンス、イベントが影響しており、70年に刊行されたジーン・ヤングブラッドの著作『エクスパンデッド・シネマ』においては映像体験を通してもたらされる「拡張した意識」という観点からエクスパンデッド・シネマが位置付けられた。代表的な作家はスタン・ヴァンダーピーク、ロバート・ホイットマンなど。日本では68年に開催された展覧会「アンダーグラウンド・シネマ 日本-アメリカ」をきっかけにアメリカの実験映画が本格的に紹介されてアングラ・ブームを生み出した。エクスパンデッド・シネマを手がけた日本人作家には飯村孝彦、松本俊夫らが挙げられる。

文=中島水緒

参考文献
『アメリカン・アヴァンガルド・ムーヴィ』(西村智弘、金子遊編、森話社、2016)
『エクスパンデッド・シネマ再考』(東京都写真美術館、2017)