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アレゴリー

Allegory

「別のものを語る」という語意をもつギリシア語「allegoria」に由来する、修辞技法の一種。寓喩。視覚芸術の枠組みにおいては、抽象概念が擬人化された「寓意像」としてよく知られる。たとえば、ブロンズィーノの《愛のアレゴリー》に描かれた男児は、「快楽」を意味する寓意像である。この例において、男児の形象はその可視的な情報以上の「別の」意味(「快楽」)を付け加えられており、この付加的な性格、過剰性が、アレゴリーのひとつの特徴と言える。

 中世キリスト教神学の聖書解釈技法においては、新約聖書の視点から旧約聖書を読解する方法が取られ、前者は後者のうちにすでに隠されているという観点から、両者の非連続性の乗り越え、統一化が図られた。そのプロセスでは、聖書中の個々の箇所について、その「字義通りの」意味とは別に、「寓喩的」意味を含むより深い意味が読み込まれていくこととなる。ある先行するテクストを別のテクストを通じて読み換える/再編する、というアレゴリカルな手続きは、いっぽうで複数のテクストを首尾一貫した読みのうちに統合することを志向しながら、しかしそれが置き換えあるいは付加として作用するかぎり、他方では一義的な意味の確立の失敗をみずから物語るという、脱構築的な次元を抱え込んでいる。この点でアレゴリーは、際立って両義的な性格を備えている。また、複数の相容れない意味が読まれるというアレゴリーの剰余生産的な様相は、記号と意味、形式と内容の不可分な統一、全体化として説明される「シンボル」とは対照をなすものである。

 美術批評家のクレイグ・オーウェンスは論文「アレゴリー的衝動――ポストモダニズムの理論に向けて」(1980)において、芸術作品をシンボルと見なす近代美学、そしてそれに根差したモダニズム芸術によって批評的抑圧を被ってきたアレゴリー的なものが、ポストモダニズムの作品群において回帰していると指摘した。例えばヴァルター・ベンヤミンの思想的復権は、この「アレゴリー的衝動」の際立った指標として看取される。消滅に瀕する過去を忘却から救い出し、現在に回復するという救済的なヴィジョン、あるいは事物のはかなさの認識とその永遠化への希求、音声言語の陶酔性に対する筆記文字の意味作用、といったベンヤミン的主題は、すぐれてアレゴリー的な両義性を示すものである。オーウェンスによれば、ポストモダニズムの諸作品が採用する、アプロプリエーション/サイト・スペシフィシティ/非永続性/集積/異種混淆化といった手法のうちに、こうしたアレゴリー的思考への共鳴を聞き取ることができる。

文=勝俣涼

参考文献
クレイグ・オーウェンス「アレゴリー的衝動――ポストモダニズムの理論に向けて」新藤淳訳『ゲンロン』1-3号(株式会社ゲンロン、2015-16)