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「空虚」展

La spécialisation de la sensibilité à l'état matiè

 イヴ・クラインによる「第一物質の状態における感性を絵画的感性へと安定させる特殊化」と題された個展の通称。1958年4月28日-5月12日にパリのイリス・クレール画廊で開催された。クラインは画廊から机や椅子などの家具を外に出し、室内を白一色にし、扉の外側は青く、内側は白く、同じく窓ガラスの外側は青く、内側は白く、と空間の内と外に色彩の対比をつくり出した。

 自身が用いる青色「インターナショナル・クライン・ブルー」のスタンプが押された招待状が3500人に送られ、約3000人が訪れている。また市の許可が下りなかったため実現しなかったが、展覧会の初日にはコンコルド広場のオベリスクをブルーのライトで照らす計画が立てられ、パーティーではブルーのカクテルが振舞われるなど、青の単色がさまざまなかたちで浸透していくような趣向を凝らした展覧会でもあった。

 クラインの着想は、彼がアトリエから絵画をすべて運び出した際、空になったその場所に、絵画が掛かっていたことをしるす壁の痕跡を見つけ、不在性にたいする強い関心をもったことによる。1957年にパリのコレット・アランディ画廊の個展「純粋色」においても、画廊の一室を空にしていた(ただし物質的に空にしたのみ)。こうした志向性には、クラインが1960年にシャンパーニュ=プルミエール街14番地のアパートの2階から地面へと空中ダイビングしたパフォーマンス《空虚への跳躍》に見られるような、塗料も支持体も不在の空間に描かれるという絵画の非物質化、すなわち空虚との一体化を見ることができる。

文=中尾拓哉

参考文献
「イヴ・クライン 非物質のリアリスト 1928-1962」(『美術手帖』美術出版社、1979年11月号)