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2022.1.29

ついに開館。大阪中之島美術館の膨大な収蔵品を「超コレクション展」で見る

2月2日にオープンする大阪中之島美術館。オープニングを飾るのは、これまで30年以上にわたり同館が収集してきた収蔵品を紹介する「Hello! Super Collection 超コレクション展 ─99のものがたり─」だ。

展示風景より、佐伯祐三《郵便配達夫》(1928)
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 2月2日のオープンが迫る大阪中之島美術館。そのこけら落としとなる展覧会が、これまで同館が収集してきたコレクションを紹介する「Hello! Super Collection 超コレクション展  ─99のものがたり─」だ。展覧会のハイライトを開館に先んじてお届けする。

大阪中之島美術館

 大阪中之島美術館の計画が立ち上がったのは1980年代。1990年に準備室が開設されて以来、じつに30年越しの美術館開館となる。今回のコレクション展は、オープンまでのあいだも連綿と続いてきた同館の作品収集と研究を広く紹介する展覧会となった。

展示風景より、近代日本画の展示

 展覧会は「Hello! Super Collector」「Hello! Super Stars」「Hello! Super Visions」の3章。4階と5階の展示室を全面的に使用して同館のコレクションを展示している。

 第1章「Hello! Super Collector」は、同館の礎となった「山本發次郎コレクション」「田中徳松コレクション」「高畠アートコレクション」の3つの個人コレクションに由来する作品を展示することで、同館の活動について紹介する。

展示風景より、山本發次郎コレクションの佐伯祐三作品

 1983年、大阪市は実業家・山本發次郎の遺族から、574件の作品の寄贈を受ける。これが、現在の大阪中之島美術館の計画の発端となった。独自の審美眼を持っていた山本は、佐伯祐三をはじめとする洋画とともに、墨蹟や染織なども収集しており、展示ではそのユニークな美意識を垣間見ることができる。

展示風景より、山本發次郎コレクションの墨蹟や染織
展示風景より、佐伯祐三《パリ15区街》、《レ・ジュ・ド・ノエル》(ともに1925)

 とくに佐伯祐三の絵画は8点が展示され、1928年に佐伯が30歳の若さで世を去るまでのわずかな画業を見渡せる作品をセレクト。佐伯の画風が独自性を獲得していく過程を見ることができる。

展示風景より、左から佐伯祐三《レジュ・ド・ノエル》(1925)、《街角の広告》(1927)

 日新製鋼の社長を務めた田中徳松のコレクションは、1987年に19点が遺族より大阪市に寄贈。上村松園や須田国太郎をはじめとする近代日本画の優品が集められた。また、高畠アートコレクションは、画廊の経営者であった高畠良朋が、山本發次郎コレクションの寄贈に感銘を受け、佐伯と同時代のエコール・ド・パリの作家たちの作品を収集したもの。会場ではモーリス・ユトリロやキスリング、マリー・ローランサンなどが展示され、高畠の尽力によって同館のコレクションがより厚いものになったことがうかがえる。

展示風景より、左からモーリス・ユトリロ《グロレーの教会》(1909頃)、キスリング《オランダ娘》(1922)
展示風景より、マリー・ローランサン《プリンセス達》(1928)

 1990年、同館の前身となる美術館の準備室が設立され、購入を含めたより本格的な収集活動が開始された。コレクションの軸のひとつとして、大阪にゆかりのある近現代美術の収集が掲げられ、それまで検証の機会が少なかった大阪の美術活動が検証されるようになった。大阪の洋画草創期を築いた山内愚僊や松原三五郎の作品のほか、「もっとも大阪らしい画家」と称されたという小出楢重の静物画などは、往時の大阪の洋画の状況を知ることができる重要な作品だろう。また、島成園や木谷(吉岡)千種、三露千鈴の作品展示では、大阪を舞台に活躍した女性の日本画家が数多くいたという事実に光を当てている。

展示風景より、左から赤松麟作《裸婦》(昭和初期)、松原三五郎《老媼夜業の図》(1892)
展示風景より、小出楢重《菊花》(1926)
展示風景より、左から木谷(吉岡)千種《をんごく》(1918)、島成園《祭のよそおい》(1913)、三露千鈴《殉教者の娘》(1926)

 また、写真のコレクションにも注目したい。女性写真家の草分けとして活躍した山沢栄子の作品や、1930〜40年代にかけて前衛的な作品を数多く発表したアマチュア写真グループの作品などによって、戦前の大阪で起こっていた美術のムーブメントを知ることができるだろう。

展示風景より、左から山沢栄子《What I am doing(73)》、《What I am doing(64)》、《What I am doing(9)》(いずれも1982)
展示風景より、上田備山《1930年代》
展示風景より、瑛九《顔(1)》(1950)、玉井端夫《海辺の詩》(1962)、津田洋甫《埋め立て》(1959)

 版画作品も佳作がそろう。戦前戦後にかけて様々な技法で版画を制作した前田藤四郎や、瑛九が大阪の作家と結成した「デモクラート美術家協会」の関連作家の版画作品など、美術の新潮流を生み出した作品が数多く展示されている。

展示風景より、前田藤四郎《屋上運動》(1931)

 第1章の最後では、壁面が黒く塗られた展示室が現れる。この黒い壁は、吉原治良を中心に結成され、いまや世界的に高い評価を受ける具体美術協会(具体)がかつて中之島に持っていた展示施設「具体ピナコテカ」の黒壁にちなんだものだ。具体の作品収集にも力を入れている同館だが、今回は吉原と今井俊満の2作家をセレクトして展示を構成。ふたりの作風の違いを比べてみるのもいいだろう。

展示風景より、吉原治良作品
展示風景より、左から吉原治良《White Circle on Red》(1963)、《作品》、《作品》(ともに1965)
展示風景より、今井俊満《New York (C)》(1981)

 第2章「Hello! Super Stars」では、収蔵作家のなかから25人を厳選して紹介する。選定基準としては、国内外の展覧会への貸出履歴が多く、これまで広く人の目に触れてきた作品だという。どこかで目にしたことのある作品を、ホームグラウンドである同館であらためて見ることができる好機となる。

 展示室入口のアメデオ・モディリアーニ《髪をほどいた横たわる裸婦》(1917)は、同館コレクションとして初めて購入した海外作家だという。大阪中之島美術館の西洋美術コレクションの代表格といえる。

展示風景より、アメデオ・モディリアーニ《髪をほどいた横たわる裸婦》(1917)

 また、アルベルト・ジャコメッティ、デイヴィッド・スミス、モーリス・ルイス、ゲルハルト・リヒター、杉本博司、森村泰昌など、国内外の美術の潮流を的確に見つめながら、近現代の作品を収集してきたことがうかがえるラインナップを紹介。館の建屋がなくとも、コレクションを軸に後世に引き継ぐ価値を創出しようとしたこれまでの学芸員たちの尽力をいまに伝える。

展示風景より、奥がモーリス・ルイス《オミクロン》(1960)、手前左からデイヴィッド・スミス《吊るされた人物像》(1935)、アルベルト・ジャコメッティ《鼻》(1947)
展示風景より、左から杉本博司《Marion Palace,Ohio》(1980)、《U.A. Rivoli, New York》(1978)、《Metropolitan, L.A., Los Angeles》(1993)、《Imperial, Montreal》(1995)
展示風景より、左から森村泰昌《美術史の娘(劇場A)》、《美術史の娘(劇場B)》(ともに1989)

 第3章「Hello! Super Visions」は、ポスターや家具などデザイン分野のコレクションを紹介する。同館が「生活の中の芸術」を収集方針として掲げて「デザイン」を収集し始めたのは1992年だという。会場ではミヒャエル・トーネットやコロマン・モーザー、ヨーゼフ・ホフマン、イルマリ・タピオヴィーラ、ミース・ファン・デル・ローエ、アアルト、倉俣史郎などプロダクトデザインにおける名品の数々を見ることができる。

展示風景より、椅子の展示
展示風景より、イルマリ・タピオヴィーラ「ドムス・シリーズ」(1946-50年代)
展示風景より、倉俣史郎「引き出しの家具」シリーズ(1967)
展示風景より、手前から倉俣史朗《ミス・ブランチ》(1988、製造1989)、《illuminated Revolving Cabinet》(1973、製造2008)

 さらに同館は、「サントリーミュージアム[天保山]」の休館を受け、1万8000点を誇るサントリーポスターコレクションを預っている。こちらのコレクションからも、アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレックや、ピエール・ボナール、アルフォンス・ミュシャ、ヴィンセント・ピアズリーらがデザインしたポスターが展示される。

展示風景より、左からチャールズ・レニー・マッキントッシュ《グラスゴー美術教会》(1895)、アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレック《ムーラン・ルージュ、ラ・グーリュ》(1891)
展示風景より、オーブリー・ヴィンセント・ピアズリーによるポスター

 ほかにも、アール・ヌーヴォーからアール・デコ、ロシア・アヴァンギャルドなど、現代のグラフィックデザインにも影響を与え続ける意匠の数々を堪能できる。また、会場では家具とグラフィック作品とのコラボレーションにも注目したい。総合芸術として様々な様式を模索していった近代デザインの歴史を感じることができるだろう。

展示風景より、グスタフ・クルーツィスのポスター
展示風景より、手前がヘリット・ルートフェルト「アームチェア」シリーズ

 長年の準備期間を経て、いよいよ開館となった大阪中之島美術館。新たな施設としてだけでなく、その根幹に貫かれているアーカイブの蓄積と研究を、巨大なスケールで感じることができる展覧会だ。

展示風景より、左からモーリス・ド・ヴラマンク《雪の村》(1930頃)、アンドレ・ドラン《驚き》(1938)、

 なお、開館にあわせてミュージアムショップ「dot to dot today」がオープン。今後は、デンマーク発のインテリアプロダクトブランドショップ「HAY OSAKA」や、「リュミエール」をはじめ数々のレストランを展開するリュミエールグループによるフランス料理「lerestau K’art」、カフェレストラン「Musée KARATO」なども館内に出店予定。こちらも、展示とともに楽しんでみてはいかがだろうか。