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2021.10.24

ホー・ツーニェンはなぜ「妖怪」を描いたのか? 新作個展「百鬼夜行」を豊田市美術館で見る

シンガポールを代表するアーティストのひとり、ホー・ツーニェン。その新作映像作品群を初公開する個展「百鬼夜行」が豊田市美術館で始まった。会期は2022年1月23日まで。

展示風景より、ホー・ツーニェン《100の妖怪》(2021、部分)
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 「あいちトリエンナーレ2019」に参加し、大きな注目を集めたシンガポール出身のアーティスト、ホー・ツーニェン。その新作個展「百鬼夜行」が、豊田市美術館で始まった。会期は2022年1月23日まで。

 ホー・ツーニェンは1976年シンガポール生まれ、現在も同国を拠点に活動している。シンガポールは19世紀には英国領となり、太平洋戦争中には日本の軍政下に置かれていた歴史がある。ツーニェンはこれまで歴史や伝承を丹念にリサーチし、アジア全域にまたがる複雑な物語を描き出し、現代につながる近代以降のアジアの問題に光を当ててきた。森美術館(2012)やビルバオ・グッゲンハイム美術館(2015~16)での個展のほか、第54回ヴェネチア・ビエンナーレ(2011)や第13回光州ビエンナーレ(2021)などの国際展にも参加。その作品は国際的に高く評価されている。

展示風景より、ホー・ツーニェン《100の妖怪》(2021、部分)

 今回の個展は、「あいちトリエンナーレ2019」豊田会場の喜楽亭で見せた《旅館アポリア》、今年春に山口情報芸術センターで発表した《ヴォイス・オブ・ヴォイド》に続く、ホーの日本をテーマとしたプロジェクトの第3弾となるものだ。

 ホーは《旅館アポリア》と《ヴォイス・オブ・ヴォイド》で京都学派を含む、戦争を支えてきたとされる思想を扱った。今回は、日本古来から存在する「妖怪」を中心に、第二次世界大戦中の日本軍のスパイ、そしてホーがこれまでも主要なモチーフとしてきた「虎」がレイヤーとなり、作品を構成している。

展示風景より、ホー・ツーニェン《100の妖怪》(2021、部分)

 例えば、本展でもっとも大規模な作品《100の妖怪》は、その名の通り「百鬼夜行」の様子をアニメーションで表現したものだ。しかしながら、「だいだらぼっち」や「ろくろ首」などのよく知られる妖怪だけが登場するわけではない。そこには、第二次世界大戦中にシンガポールで活動し、ともに「マレーの虎」と呼ばれた2人の人物──ひとりは日本人盗賊で後に日本軍の「F機関」(南方の秘密工作機関)でスパイ活動を行った谷豊、もうひとりはシンガポール作戦を率いた山下奉文大将──を中心に、軍人、スパイ、思想家などが妖怪の姿を借りて出現する。

 来日したホーは、「妖怪は私にとって、日本の歴史を見るためのレンズのようなもの。妖怪は各時代にふさわしいかたちで現れており、妖怪から時代について考えることができる」と語る。いつの時代も恐怖や好奇心で大衆を惹きつけてきた妖怪は、日本の大衆文化の表象でもある。ホーは今回、こうした妖怪の存在を通して、第二次世界大戦を含む日本の歴史あるいは日本という国そのものの姿を洞察し、浮かび上がらせることを試みている。

展示風景より、ホー・ツーニェン《100の妖怪》(2021、部分)

 また、アニメーションという表現手段も重要な要素だ。ホーはアニメーションを構成する複雑なレイヤーが分離する瞬間に関心を抱いており、「歴史もいくつかのイメージがレイヤーとして重なっている。歴史を見るうえでも、階層のイメージを分解して理解するというのはアニメーションと同じ」と話す。歴史を紐解くホーにとって、アニメーションを使うことはごく自然の選択だと言えるだろう。

 なお、本展では実験音楽家・恩田晃の作曲とプロデュースによって、実験音楽家・灰野敬二とPhewが映像にあわせて音楽を演奏。「百鬼夜行」の世界をより強烈なものにしている。

展示風景より、ホー・ツーニェン《36の妖怪》(2021、部分)

 アニメーションを使いながら、時代とともに揺れ動いてきた妖怪たちに軍人やスパイの姿を重ねることで、近代日本が歩んできた複雑な歴史や精神性を浮かび上がらせるホー・ツーニェン。意欲的な新作群を目撃してほしい。