2021.6.16

香港政府が映画の検閲を強化。「国家の安全を脅かす」映画の上映を禁止

香港政府は6月11日に映画検閲規制の改正を発表し、国家の安全を脅かす行為や活動を促進または賛美していると思われる映画の上映が禁止されるようになった。

香港 Photo by Ryan McManimie on Unsplash

 昨年6月末に香港で施行された「香港国家安全維持法」については、芸術表現や言論の自由の侵害が強く懸念されている。その影響が映画界にも及んでいる。

 香港政府は6月11日に映画検閲規制の改正を発表。同日より発効した新しい規制では、香港の映画検閲官に国家の安全を脅かす行為や活動を促進または賛美していると思われる映画の上映を禁止する権限が与えられる。

 中国本土では、海外の映画やドキュメンタリー作品は毎年約40本のみ公開されており、国内の映画とともに厳しい検閲がかけられている。いっぽう、香港ではこれまで性的・暴力的・差別的な内容の規制があったが、中国本土のような厳しい政治的な内容に対する規制が適用されなかった。

 しかし香港国家安全維持法の施行に伴い、香港は中国本土での映画検閲に一歩近づいたことになる。今年3月、香港の抗議デモを描いたドキュメンタリー映画『Inside the Red Brick Wall』は劇場公開の直前に上映がキャンセル。香港の大手放送局のTVBは4月、香港の民主化運動を題材にしたドキュメンタリー映画『Do Not Split』を短編ドキュメンタリー映画賞にノミネートしたアカデミー賞授賞式の放送を拒否した。

 今回の改正が発表された同日、香港の第15回フレッシュウェーブ国際短編映画祭の主催者は、反政府デモ後の香港の政治的分裂を描いた短編映画『Far From Home』が検閲官の承認を得られなかったため、上映を中止した。

 同映画祭に参加している10人の映画監督は共同声明文で、主催者の決定は「政治的な抑圧や創作・表現の自由への干渉」だとしつつ、次のように訴えている。「私たちは生まれながらにして自分自身を表現する権利を持っており、承認条件の厳格化によって私たちが沈黙することはない。映画は自由な表現のツールであり、私たちはこれからも映画を使って自分の考えやアイデアを表現していく」。

 なお国家安全維持法下の香港では、美術館の自己検閲も厳しくなっている。今年年末に開館予定のヴィジュアル・カルチャーミュージアム「M+」は、アイ・ウェイウェイらによる政治的に挑発的な作品の展示予定を否認し、大館(タイクン)などの美術館も自己検閲についてより慎重な態度を示している。