2020.9.11

トランスジェンダーの主人公と孤独な少女のかつてない愛。映画『ミッドナイトスワン』は音楽にも注目

草彅剛演じるトランスジェンダーの主人公と、親の愛情を知らない少女の擬似親子的な愛を描いた映画『ミッドナイトスワン』。予告編の再生数が累計70万回を突破するなど、公開前から大きな反響を集める本作は、その世界観を後押しする渋谷慶一郎の音楽にも注目だ。

映画『ミッドナイトスワン』より
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 トランスジェンダーの主人公と、親の愛情を知らない孤独な少女の間に、擬似親子のような愛が生まれていく様子を描いた映画『ミッドナイトスワン』。主演に草彅剛、監督にNetflixのオリジナルドラマ『全裸監督』を手がけた内田英治という異色の布陣で制作された本作は、が、9月25日の公開前から大きく注目を集めている。

 物語は、トランスジェンダーの凪沙が故郷を離れ、新宿のショーパブのステージに立つシーンから始まる。ある日凪沙は、養育費目当てで親戚の少女・一果を預かることになる。これを機に、社会の片隅に追いやられてきた凪沙と、実の親の育児放棄によって孤独に生きてきた一果の間に、かつてない感情が芽生えていく。初めて愛を知り、母性が芽生え、凪沙がどのような「母」になっていくのかを、草彅が演じきっている。

映画『ミッドナイトスワン』より

 本作の世界観を後押しするサウンドトラックは、音楽家の渋谷慶一郎が特別に書き下ろしたもの。現在その全14曲をピアノソロに再構成したという最新アルバム『ATAK024 Midnight Swan』が、渋谷率いるレーベル「ATAK」の公式オンラインストアで先行限定発売されている。

 アルバムのミックスは、青葉市子や蓮沼執太フィルらを手がける気鋭の若手エンジニア、葛西敏彦が担当。マスタリングは、FKA TwigsやBlur、Led Zeppelinなど数多くの有名アーティストの作品を手がけるロンドン、メトロポリス・スタジオのジョン・デイヴィスを起用したという。渋谷がスタジオとの緊密なやりとりを経て完成させたアルバムは、立体的な音響性と音圧、精密性が同居した、耳と記憶に残るピアノソロだ。メインテーマによる映画の予告編は、YouTube公開からすでに累計再生数70万回を突破。映画公開前から大きな反響を集めている。

 またアルバムのジャケットには、今日の中国の写真家を代表するアーティスト、リン・チーペン a.k.a No.223の写真を起用。物故の写真家レン・ハンも影響を受けたといわれるリンの写真は、保守的な文化状況のなかで自身が揺れ動きながら切り取った若者たちの愛や悲しみと、政治的活動の断片のようなもの。

 本アルバムのレコーディングは、渋谷自身が1週間で約2時間の映画全編の作曲、録音をたったひとりで完成させたという。渋谷曰くきわめて短期間で自動書記のように無意識を記述したというピアノソロは、映画やリンの写真とどう呼応するだろうか。

渋谷慶一郎 ATAK024 Midnight Swan 2020
Photograph by Lin Zhipeng a.k.a No.223