2020.7.15

幻想的な音色と自然に包まれる。ポーラ美術館がスーザン・フィリップスのサウンド・インスタレーションを収蔵・公開

音によって空間や環境を新たに体験させるサウンド・インスタレーションを手がけるスーザン・フィリップス。そのサウンド・インスタレーションを、箱根のポーラ美術館がコレクションに追加した。フィリップスの作品の収蔵は、国内の美術館では同館が初となる。

スーザン・フィリップス Wind Wood 2019 ポーラ美術館蔵 撮影=木奥惠三
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 神奈川県・箱根町のポーラ美術館が、スーザン・フィリップスのサウンド・インスタレーション《Wind Wood》(2019)を新たにコレクションに追加。同館の森の遊歩道で、7月23日より公開される(〜11月30日)。

 本作は、2019年に同館で開催された企画展「シンコペーション:世紀の巨匠たちと現代アート」に際して、美術館屋外の「森の遊歩道」で展開されたもの。なおフィリップスの作品の収蔵は、国内の美術館では同館が初となる。

 フィリップスは、音によって空間や環境を新たに体験させるサウンド・インスタレーションを多く手がける。その作品は、美術館やギャラリーなどの室内、あるいは日常的な騒音が混在するバス停や線路などの野外にも設置され、周囲の環境と鑑賞者を取り込みながら展開されていく。フィリップスがつくり上げる作品は、場所の記憶や歴史を読み解き、空間や建築物との対話を経て、深く豊かな音色として紡がれる。

ポーラ美術館 森の遊歩道
ポーラ美術館

 本作の制作に先立って、フィリップスは箱根に滞在。同館を取り囲む自然の美しさ、そしてコレクションの中核をなす印象派の画家たちの作品から着想を得たという。完成した作品《Wind Wood》は、小説家ジェイムズ・ジョイスの娘で、1920年代のパリでダンサーとして活動したルチア・ジョイスに捧げられる。フィリップスは、ルチアが好み、また印象派とも称される作曲家モーリス・ラヴェルの歌曲『魔法の笛』を題材とすることで、印象派絵画との共鳴を生み出した。

 本作では、フルートの音色が、印象派による「筆触分割」のように音階ごとに解体され、それぞれの音が別々に置かれた11個のスピーカーから響き合う。美しくメランコリックな音色が立体的に立ち上がり、自然豊かな鑑賞空間をより彩る作品だ。

スーザン・フィリップス Wind Wood 2019 ポーラ美術館蔵 撮影=木奥惠三