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2020.9.19

あいトリから「新・国際芸術祭(仮称)」へ。組織委会長・大林剛郎はどのような芸術祭を目指すのか?

これまで4回続いてきた「あいちトリエンナーレ」が、2022年より「新・国際芸術祭(仮称)」として新たなスタートを切る。組織委員会の体制も大きく変わるこの「新・国際芸術祭(仮称)」について、組織委会長に就任した大林組会長・大林剛郎の単独インタビューをお届けする。

聞き手=橋爪勇介(ウェブ版「美術手帖」編集長)

「新・国際芸術祭(仮称)」組織委員会の会長に就任した大林剛郎
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 2010年の初回以来、4回の開催を経て徐々に日本を代表する国際展としての地位を確立してきた「あいちトリエンナーレ」が、その名称と体制を大きく変え、次回2022年に向けて動き出した。新名称「新・国際芸術祭(仮称)」では、これまでの県知事がトップを務める実行委員会方式から体制を変更し、組織委員会を軸に運営される。この初代会長に就任したのが大林組取締役会長の大林剛郎だ。大林は大林財団理事長として文化振興を行うほか、森美術館理事、テート美術館インターナショナル・カウンシル・メンバー、ニューヨーク近代美術館インターナショナル・カウンシル・メンバーなどを務め、美術界とも強力なコネクションを持っている。会長に就任したばかりの大林に、現時点での構想について話を聞いた。

──今回の会長就任の打診にはどのような経緯があったのでしょうか?

 これまでのあいちトリエンナーレではすべての権限が最終的に知事に集約されていました。昨年行われた「あいちトリエンナーレのあり方検討委員会」では、その組織体制に問題があるとの方針が示されました。その結果、運営組織(組織委員会)のトップは民間から起用しようということになった。

 私は常々、都市が発展していくとソフトパワーが大事になってくると考えてきたし、昨年出した本(『都市は文化でよみがえる』、集英社新書)のなかでも訴えているのですが、これがきっかけでお声がけいただいたのです。

──なかなかの重責ですが、就任を引き受けた決め手は?

 あいちトリエンナーレはヨコハマトリエンナーレと並び、日本では非常にクオリティの高い芸術祭です。昨年は「表現の不自由展・その後」に起因する展示中止があったものの、最終的に再開された経緯がありますね。ところが今度は「ひろしまトリエンナーレ」でも広島県が事前検討委員会を設置しようとしてディレクターが辞任、結果的に開催中止ということになりました。

 そんなとき、もし「あいちトリエンナーレはもうやらない」ということになれば、日本の芸術に対するサポートの姿勢が疑われかねない。海外の美術関係者からもあいちトリエンナーレは非常に評価が高いだけに、です。

大林剛郎

──その「あいちトリエンナーレ2019」はどう評価していますか?

 残念ながら見ていないのでなんとも言えません。それにいまの自分の立場で個別のアーティストや作品について言及してしまうと、今後に影響してしまう。議論が起こること自体は悪いことではないと思います。議論以外の様々な騒動があったことは残念ですが、そこを整理しつつ、展示再開へとこぎつけた努力は大変なものだったかなと。

──前回は「表現の自由」が議論の中心となりました。

 その国の法律にのっとっていれば、当然ながら「表現の自由」は担保されるべきです。何がアートで何がアートではないか、その判断は非常に難しいですよね。表現の自由でなんでもかんでもやるというのも、不快感を覚えたから芸術ではないというのも極論。それは政治が決めるということではなく、世論が決めていくことなのではないでしょうか。

 文化庁の補助金問題にしても、減額されたにせよ最終的には交付されました。これは国が今後も芸術祭を支援していくという意思表明だと思っています。

──今回からは、運営組織が愛知県と一定の距離を取った運営になります。

 県とは連携しつつも、組織委員会としては独立性を保つというかたちになっています。愛知県のスタンスはお金を出して口は出さない。実際にこれがうまくいけば、芸術祭の組織体制として定着するのではないでしょうか。

 たださらなる理想を言えば、ヴェネチア・ビエンナーレのように芸術祭のファンドがあり、運営が財団のような継続性のある組織でサポートされる仕組みがあることです。県が継続して予算を確保できればいいですが、新型コロナウイルスもあるなか、文化への拠出が持続するかどうか。そうしたとき、小口のスポンサーが数多く参加してくれるようなファンドがあれば、それはそれでリスクヘッジになります。

大林剛郎

──大林さんは様々な美術館のボードメンバーであるだけでなく、アートコレクターでもあります。そうした知見は、組織委会長としても生かしていきたいとお考えですか?

 海外美術館とのネットワークなどは(組織委員会として)大いに生かしてもらいたいと思っています。様々な芸術祭のキュレーターともつながりがあるので、そこから学べることもあるかもしれない。

 国内でも、岡山芸術交流のアンバサダーをやっていますので、連携していくこともできるかもしれません。実際、2022年はヴェネチア・ビエンナーレ、ドクメンタ、岡山芸術交流などが重なる年になるので、私が持っているネットワークなどが役に立てばと考えています。

 ただ芸術監督が決まったあとは、それをサポートする立場として、どうすれば愛知県の芸術祭らしいユニークで、かつこれまで以上に国際的に評価される芸術祭にすることができるのか、ということに注力したいですね。

──芸術監督は年内にも決定予定とされていますが、何を期待しますか?

 祝祭性や、愛知県の良さ、現在のコロナを含めた問題など様々なことをうまく表現できることが条件だと思います。国籍がどうなるかはわかりませんが、日本人の場合は海外にネットワークがある方、海外の場合は、日本や愛知県に理解のある方がいいですよね。「新・国際芸術祭(仮称)」はあいトリをさらに発展させたものになる必要があるので、たんにビッグネームの作家を集めるだとか、集客第一だとかではなく、芸術監督がしっかりとメッセージを伝えられ、アピールできるものでなければいけないと考えています。

──前回、津田大介芸術監督は参加作家の男女比を半々にするという画期的な試みで注目を集めました。この方向性は継承していきたいとお考えですか?

 結果的にそうなればいいと思います。この時代、ジェンダーやナショナリティなどがアンバランスにならないような努力は必要ですし、芸術監督はそうするのではないでしょうか。

──これは芸術監督の役割でもありますが、会長としてプログラム構成で重視したい点はありますか?

 次回はあいトリのもともとの特色でもあるパフォーミングアーツを再び強化していきたいですね。世界の主要な美術館はパフォーミングアーツセンターを持っているところが多いですし、ヴェネチア・ビエンナーレにしてもパフォーミングアーツが賞を受賞してます。それくらい今は注目度が高い。予算との兼ね合いもありますが。

 また愛知県は1996年から毎年「あいち国際女性映画祭」を開催していますので、これともっと連携できないかということも考えています。それに愛知県は地元の産業として陶磁器がありますので、これも取り入れたい。

 これまでのあいトリは膨大な関連イベントがありましたが、プログラムとしての一体感はあまりなかったように感じます。これをどう工夫するか。プログラムの設計などは、会社経営を経験した人間のほうがアイデアを出せるのかなという気がしています。

 いずれにせよ、祝祭性があり、地域性を重視しつつ、国際性もあるものにできるか。このバランスが大事だと思います。

──あいちトリエンナーレから「新・国際芸術祭(仮称)」への名称変更については、「イメージ一新」という狙いがあるかと思いますが、いっぽうで過去4回積み重ねてきたレガシーがリセットされる感もあります。

 名称はこれから決めるので、変わるかもしれないし、もしかしたら変わらないかもしれません。ただ、前回のことで関係者や県に抗議の電話が殺到し、協賛企業も迷惑を被った経緯がある。だから継続するのであれば、新しい名称でやってもらいたいという意見も出ています。いっぽうで、これまで関わってきた方々にとっては愛着があるし、できれば変えたくないという気持ちがあることも理解できます。

 名称を変えるにせよ変えないにせよ、傷つく人はいる。だから両方に納得してもらえるようなメッセージが伝わるようにやっていければと考えています。

 ただ私個人としては、名前は大きな問題ではないと思っているのです。中身をしっかりすれば、必然的に良い芸術祭になるでしょうから。